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奥出直人のJazz的生活


by naohito-okude

21世紀ジャズにむけて:   始めに

これから暫く21世紀ジャズについて考えていきたい。

1970年から2009年までほぼ40年。この間のジャズの音楽としての展開が十分消化されていないのではないか、というのが執筆の動機である。ジャズ批評の形をとっているが、もっと具体的には自分の耳の再訓練つまりは演奏家としての自己変革のために書いてみたいと思う。アマチュア演奏家である、念のため。

Jazz的生活の中の過去エントリーで
Inner City Jam Orchestra Party

Softwind 高木里代子ライブ


秋吉敏子 ライブ


でいくつかもやもやとしたところを書いた。そのあたりを少しずつ考えていきたい。

DownBeat 誌の2010年1月号で 2000年代のベストCDという特集があった。21世紀ジャズにむけてでは、まず手始めに、このなかで星五つを過去10年でとった100枚ほどのCDやDVDを紹介、議論しながら、70年からのジャズ史の構築と音楽としてのジャズの展開の方向性、技術と表現の問題あたりを論じていきたい。

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さて、この特集の中で、ジャズミュージシャンは2000年代をどう振り返るか、というコラムがあった。非常に参考になるので、この意見をまとめて、21世紀ジャズにむけての始めとしたい。

Eric Alexander

四拍子や三拍子ではないリズムで演奏をすることを好むようになる
単純で力強い即興演奏が好まれるようになる
いままで一緒に演奏されたことのない異質の音楽が一緒に演奏されるようになる。

Uri Caine
いままでにないような音楽の組み合わせで即興演奏をすることが試みられるだろう。
インターネットを使って作った音楽を配信するようになる。
またYoutubeなどで昔のジャズを勉強したり、いろいろな音楽を経験することが出来るようになる。
これが音楽を変える。

Peter Erskine
ジャズマン自身が録音して作品を流通させる「音楽ビジネスの民主化」の動きは止まらない。
ビジネスマンの意見に従わなくても作品を聴衆に届けることが出来る。この仕組みからどのように金銭を得ていくかが大きな問題になる。Fuzzy Musicでは利益を出しており、音楽家にも音楽の制作に関わった人にもそれを配分している。

http://www.fuzzymusic.com/
Nels Cline

ジャズの本質はライブにある。レコード産業が衰退にあることは確かだが、ライブ演奏やツアーの中に未来の音楽の可能性を見るべきではないか。またライブ演奏をインターネットでストリームして遠隔地にいるファンに演奏を聴かせることも可能性として考えられる。ミュージシャンが全部一人でやれば道は開ける。

Dave Douglass

音楽の未来は安泰である。なぜならミュージシャンは自分自身で音楽チャンネルを作って販売することが出来るからだ。そして魅力的な音楽家が増えている。多くの音楽家がどんどん学校を卒業してくることで供給過剰になるという考えは間違っている。より良質の技術をもった音楽家には多くの可能性があるのだ。

John Hollenbeck

現在録音されている音楽は量的には多いが、クオリティは低い。品質の高いグラフィックス、良い音質の録音、胸を打つ音楽を作るには時間をかけなくてはいけない。

Julie Hardy

音楽の聴衆がグローバル化して純粋なジャズファンが減っているので、ジャズはインディのロックやヒップホップ、R&D、あるいはワールドミュージックと融合して行かなくてはならない。ジャズ音楽家が演奏したい音楽と聴衆が聴きたい音楽が変わってきているのだ。

Mike Maineieri

音楽家であり、音楽教師であり、レコードレーベルの経営者であるということは利害が対立するということだ。ツアーにでると、会場でCDを売っているが、いろいろな人からCDを渡されて意見を求められても50枚60枚というCDを聞く時間はない。なのでMP3ファイルで音源を送ってくれと音楽家に言う。一方レコード会社の経営者としてはダウンロードが普及するとビジネスの先行きはよくないなと思っている。音楽家同士がインターネットで連携をとって共同作業を進めていく、といったことが必要になってくると思っている。

Christian McBride

ここ10年の大きな特徴はインディペンデントのレーベルが増えていることである。大きなレーベルはビジネスが出来なくなってきている。自分でレーベルを作って音楽をインターネットで流通させる。結果、よい音楽が沢山作られているがそれを見つけ出すことが難しくなってきている。音楽家が自分で聴衆をみつけるゲリラ戦を行わなくてはいけない。プリンスはこの活動をずっとまえに始めたていた。

Larry Godlings

ここ10年良いアルバムがたくさん売り出されたが、いいものを探すことが非常に難しくなってきている。テクノロジーは音楽を制作する作業は安価かつ安易にしたが、このことがジャズにとって良かったかどうか疑問だ。

Arturo O'Farrill

ジャズが政府や大学から正統なものであるという承認を取り付ける活動はあまり好きではない。自己目的的になって聴衆を失う。地元のライブハウスを支援し、自分自身のレーベルを持ち、フリージャズ、エレクトリックジャズ、ワールドミュージックとの融合を考えるジャズ音楽家から本物のジャズは生まれる。ジャズは進歩して行かなくてはいけない。

Danilo Perez

過去10年は独立レーベルとグローバルがトレンド。多くのCDが自宅録音かライブ録音となった。結果ジャズのCDは膨大な数になった。その一方でジャズのCDの音質は全体的には劣化した。機器の高性能化低価格化で自宅録音の音質向上に今後は期待したい。またグローバル化のなかで、エレクトリック音楽、民俗的音楽、動物などのサンプリング、などなどエキゾチックな要素も取り込んでいくべきだ。

David Murray

ジャズはどんどんわるくなっている。マーケティングの下で何をやっていいのかが見えなくなってきている。音楽にはオリジナリティが必要だ。バークレーでならうことは始まりに過ぎなくて、目的ではない。ニューヨークのジャズシーンでは何ら創造的なことは起きていない。有名になることばかり考えている。もっと深くジャズの事を考えてもらいたい

Bobby Broom

2000年になって以来、ジャズのスタイルが多様化してきている。伝統的なジャズを称えつつも、ジャズ即興演奏のインスピレーションを様々なところに求め始めている。ジャズとヒップホップ、さまざまなエスニック音楽との融合などがはじまっている。アメリカンソングブックに新しい歌を加えようとする活動もあり、またスウィングやブルースの興味も復活してきている。ラジオ放送局が何を放送しているかを調べて、これから何が起こりそうか見るべきタイミングだと思う。

さて、こうして並べて意見をみると、

1: 録音技術が進歩して、自宅でも録音ができるようになった
2: インターネットが進歩して自分で配信できるようになった
3: CDビジネスは衰退しているが、良い音楽を聴きたい聞き手に届けるビジネスシステムが未整備
という問題に加えて、
4:ジャズにグローバル化が押し寄せていて、様々な音楽と融合していく必要がある
5:ジャズと電子音楽を組み合わせた方向にもっと積極的に出て行く必要がある
6:フリージャズも取り込んでいく必要がある。


といった時代的な変化を感じていることが分かる。では2000年から2009年にかけて、ジャズを聴く耳、演奏する意識はどのような方向性を示していたのだろうか。暫く、網羅的に聞いてみたい。お楽しみに。
by naohito-okude | 2009-12-27 19:51 | 21世紀ジャズ