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奥出直人のJazz的生活


by naohito-okude

トレたま 登場

慶應大学メディアデザイン研究科の博士課程で僕の指導の下で研究をしている石橋修一君と瓜生大輔君の作品が最近テレビ東京のトレたまで紹介された。7月7日に石橋君のサウンドキャンディが、10月6日に瓜生君のPanaviの取材を受けた。両方ともCRESTの研究成果として先日展示したものである。下記の写真は10月6日の取材風景である。

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あわただしく取材が行われて、その日に放映なのだが、映像の作り方やアナウンサーのコメントが非常に参考になった。


サウンドキャンディ

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サウンドキャンディ
http://www.tv-tokyo.co.jp/wbs/trend_tamago/tt_132.html

このおもちゃの面白いところは、単体でこうした遊びが出来る玩具をつくるには現状のコンピューターでは能力不足だ、という点にある。作り始めて4年くらいになるので最初に思いついたときはもっと技術的には遠い話であった。最近になってようやく来年くらいにはできるかなというところである。学会で発表して、賞もとっているのだが、それを実際のおもちゃまでに持って行くプロセスが問題である。僕はこのプロセスも評価する仕組みが必要だと思っている。だが、なかなかそこは難しいところだ。いままでの軌跡については下記のURLを参考にして欲しい。

http://www.sound-candy.com/

平成19年度(第11回)文化庁メディア芸術祭で最終審査会まで進んで、エンターテイメント部門審査委員会推薦作品にも選ばれた。だが、ここから先がなかなか難しい。技術が市場にでてくるまで成熟するまで何年かかかる。アートではなくて日常世界の中で普通に使われるおもちゃという位置つけだからだ。幸いにも国のプロジェクトであるCRESTのなかのプロジェクトの一つとして研究を継続することが出来た。しかし、いつもこのようにうまくいくとは限らない。最終的なプロダクトから逆算して要素的な技術を評価する仕組みがあればいいのだが。「研究」の時はある程度予算が付き、商品化のときもそれなりに道はある。だがその間を支援する仕組みがない。20世紀の産業は考えてThinking(研究)つくるDoing(製造)の二層構造だからだ。しかし、考えてプロトタイプを作って考えて、納得がいったら作るという新しい産業構造が生まれつつある。Thinking>Making>Doing三層構造である。これが21世紀の産業だ。Makingを支援する仕組みをつくった組織なり制度が次を制することはたしかなのだ。

さて、Panaviは修士の生井みずきさんと瓜生大輔君の研究だ。瓜生君はMoopongというかつての名作を作ったメンバーであり、かつ自分の作品も多い。サウンドキャンディも石橋君と彼の手になる。基本的な考え方は同じで利用者の身体的な動きをコンピュータに伝達して、コンピュータの方はそれを元に情報処理を行い、その結果を利用者に戻す。

http://www.tv-tokyo.co.jp/wbs/trend_tamago/post_243.html

取材に当たったアナウンサーの前田真理子さんのコメントが面白かった。

http://www.tv-tokyo.co.jp/wbs/toretama_syuzai/post_234.html


フライパンが重い、温度が下がりにくい、具が入ると表示が見にくいというものであった。まさにその通りである。下記の写真は撮影の時のキッチンにPanaviを装着したところ。

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当初設計した機能を実装すると現状になる。これはDoingの状態ではなく、Makingの状態である。ここからもう一度反復をする。これをItrationという。現状は3次元プリンターで取っ手をつくり、フライパンの形もつくった。それをもとに砂で型をとり、センサーをいれて、アルミを流し込んだのだ。コンピュータに振動センサーと温度センサーで繋がるフライパンのできあがりである。これの軽量化は大きな課題である。

だが、このプロトタイプを作ることで、一流の料理人が「ここは強火で」といっているビデオ映像があれば、それをもとにプロセスを素人でも「まねる」ことができる。上手にまねることが出来ると、格段に味の違う料理が出来る。カルボナーラをつくったことがあるだろうか?普通はなんだか卵とじみたいになってしまう。イタリア料理の著名なシェフの落合務氏はDVDも出しているが、そのDVDを再生しながら、Panaviをつかって、落合氏の指示どおりに作ってみると、たしかにひと味違う。このプロトタイプを使って何人もの大学院生にカルボナーラに挑戦してもらった。

みな楽しそうに作っていた。うまくいくときもあれば行かないときもある。しかし料理は楽しい。画面表示にもセンサー付きのフライパンの中にもない、「料理を楽しむ経験」がたしかにデザインされていた。これを専門用語で「コンセプトのプルーフ(証明)」という。ここが証明されたらあとは使いやすくする、これは専門用語でユーザビリティ(Usability)という、の向上に向かっていけばいい。その様子は下記のURLのビデオを見て欲しい。これはこのblogでも紹介したユビキタスコンテンツショーケースでの記録だ。

http://vimeo.com/6774238

通常の開発のプロセスだと、使いやすさが優先すれば料理を楽しむ経験のデザインがおろそかになり、料理の経験を優先させると、たいていの場合技術的な問題で使いにくくなる。このあたりを試行錯誤するのがMakingなのだ。そして、このMakingのコストが劇的に下がっていることが新しい。3Dプリンターとあたらしい電子回路がなければこのような工作をして製品のコンセプトをプルーフして、使い勝手を向上させる作業を短期間で一気にすすめることは難しいのである。

ちなみに大企業の「デザイン部門」はほとんどがプロダクトデザイナーなので、こうしたインタラクションのデザインはできない。またインタラクションが出来るデザイナーの多くはWeb制作会社で働いているが、かれらはプロダクトのデザインは出来ない。こうした作業を一つのグループでおこなってしまうこともMakingのための大切な条件なのである。デザイン思考2.0として僕が考えているのもこの問題である。

さて、プロトタイプもここまでできると、特許を出すことが出来る。2009年9月14日に国内特許を出願完了している。panaviとは、家庭のキッチンでプロの味わいを再現するためのフライパンである。センサー・アクチュエータ・無線通信機能を内蔵したフライパンと、フライパンから送られる情報を処理するコンピュータ・システムで構成されている。このシステムが適切な温度や時間・工程の管理、味付け、フライパンの動かし方などを調理者にナビゲートする。この作業を通じて、プロが経験的に身につけている感覚と技を素人が学習することを支援する。また、panaviはふつうの調理道具と同様に一般家庭のキッチンで使用が可能である。ここが非常に大切な点だ。
毎日の食事作りの際に繰り返して使用することで、調理者自身がスキルアップしていく。

いずれにしてもトレたまに紹介していただき、楽しい経験になった。テレビ東京のスタッフの方々、どうもありがとう。
by naohito-okude | 2009-10-08 10:34 | デザイン